2. エルメスの全体像:3つの「誇り」で理解する

エルメスを理解する時、複雑なモデル名を覚える前に、まずこの「3つの柱」を頭に入れてください。これさえ分かれば、なぜ高いのか、なぜ人気なのかが自然と見えてきます。

① 「馬具工房」としてのアイデンティティ

1837年にパリで創業した時、エルメスが作っていたのは「馬の鞍(くら)」や「手綱(たづな)」でした。馬具は、もし壊れたら乗り手の命に関わります。そのため、**「絶対に壊れない堅牢さ」と「馬に負担をかけない美しさ」**が極限まで追求されました。 この「道具としての信頼性」が、現在のバッグ作りにも100%引き継がれています。

② 職人による「完全手仕事」

多くの高級ブランドが機械による大量生産に移行する中、エルメスの主力バッグは今でも**「一人の職人が最初から最後まで」**手作りしています。 一つのバッグを作るのに約20時間以上。この徹底した職人至上主義が、唯一無二のオーラを生んでいます。

③ オレンジ色の魔法(エルメス・オレンジ)

今やブランドの象徴である「オレンジボックス」。実は、第二次世界大戦中に包装紙が不足し、余っていたオレンジ色の紙を使ったのが始まりと言われています。災い転じて福となす。この柔軟な創造性もエルメスの魅力です。

初心者がまず覚えるべき「3大バッグ」

名前特徴由来
バーキン (Birkin)収納力抜群。蓋を開けたまま使えるカジュアルな形。歌手ジェーン・バーキンのために作られた。
ケリー (Kelly)カチッとした台形。ワンハンドルで非常にエレガント。モナコ公妃グレース・ケリーが愛用した。
コンスタンス (Constance)「H」の金具が目立つ。肩掛けの小ぶりなバッグ。1969年登場。当時の調香師の娘の名前。

3. 基本用語・概念のやさしい解説

エルメスの店舗や雑誌でよく使われるけれど、初心者には分かりにくい専門用語を噛み砕いて説明します。

● クウジュ・セリエ(サドルステッチ)

たとえ話: 「右の針が上を通ったら、左の針は下を通る。2本の糸が交互に絡み合うことで、1箇所が切れてもバラバラにならない、魔法の縫い方です」

エルメスの真骨頂である縫製技術です。一般的なミシン縫いと違い、糸が複雑に絡み合っているため、極めて頑丈です。

● トゴ / エプソン(革の種類:素材)

エルメスには数百種類の革がありますが、初心者はこの2つを覚えればOKです。

  • トゴ (Togo): 雄仔牛の革。表面に細かいシボ(凹凸)があり、傷がつきにくく、柔らかい。一番人気です。
  • ヴォー・エプソン (Veau Epsom): 型押しされた硬い革。カチッとした形をキープしたいバッグに向いています。

● カレ (Carré)

フランス語で「正方形」という意味。エルメスの**「シルクスカーフ」**のことを指します。90cm×90cmのシルクに描かれる芸術的な絵柄は、1枚作るのに数百時間、数年の歳月が費やされることもあります。

● エルメス・ジャポン(日本法人の特異性)

日本は世界でも有数のエルメス愛好国です。独自の修理体制や、日本限定モデルなど、エルメスと日本の絆は非常に深いものがあります。

⚠️ 初心者がつまずきやすい「買えない問題」

「お金があるのにバーキンが買えない」というのは有名な話です。これはブランドが「転売」を防ぎ、本当にエルメスを愛する顧客に届けたいと考えているためです。店舗へ通い、店員さんと信頼関係を築く「エルパト(エルメス・パトロール)」という言葉まで生まれています。

4. まとめ:初心者がまずやるべきこと

エルメスの世界は奥深いですが、まずは以下のポイントを整理しておきましょう。

  • 1ルーツは馬具工房: ファッション性よりも先に「道具としての完成度」があることを知る。
  • 2職人技の継承: 一人の職人が作るからこそ、高価であり、かつ修理して一生(あるいは世代を超えて)使える。
  • 3資産価値の高さ: 定価を上回る価格で取引されることもあるため、単なる消費ではなく「投資」としての側面がある。

【最初のアクション】

まずは、バッグではなく**「スカーフ(カレ)」や「ネクタイ」「香水」**からチェックしてみるのがおすすめです。エルメスの職人魂や色の美しさを、数万円台から体感することができます。また、公式サイトの「オンラインブティック」を毎日眺めるだけでも、最新のデザイン感覚を養えます。

5. 次に学ぶと理解が深まるトピック

エルメスの基礎をマスターしたら、次は以下のテーマを掘り下げてみてください。

  • 刻印の秘密: バッグに隠された「製造年」と「職人ID」の読み方。
  • エルメスのレザー図鑑: クロコダイル、リザード、オーストリッチなどの稀少素材(エキゾチックレザー)の世界。
  • エルメスのホームコレクション: 1客数万円のティーカップから家具まで、「暮らしのエルメス」。
  • 2次流通市場(リセール)の仕組み: なぜ中古のバーキンが定価の2倍で売れるのか?